日々の残像V〜北鎌倉篇〜

大森元気 web log vol.5 - since nov.2016

いとし面影、沈丁花

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3月のある日、それは東京よりも少しだけ寒い、北鎌倉での初めての冬が終わろうとしていた日で、我が家の庭に春の風が吹き始めた日曜日の朝でした。

縁側にテーブルを出して、珈琲を淹れ、少しずつ膨らんできたさまざまな芽や木の葉を眺め、せっかくだからと祖父と祖母の形見をテーブルに載せて風に当ててあげました。

ビールと日本酒が好きだった祖父が、果たしてどのくらい頻繁に飲んでいたかは分からないけれど、安いウイスキーをコレクションのように集めて飾っていたものでした。これは形見というよりも、まだ元気な頃に帰郷して、ウイスキーが好きになった僕に喜んで持たせてくれたもの。もちろん思い出が消えてしまうみたいで開けられないでいるし、これからも飲まないんだろうな。

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そして沈丁花の小株は、祖母が生前ずっと接ぎ木で育てようとしていたものだそう。なかなか芽が出ず、彼女が亡くなった時にどうしたことか芽が出てきたらしいのです。その年の実家では一度も実をつけなかった柿が実ったり、不思議なことがほかにもあったみたい。

祖母との思い出の1つに、僕がまだ幼稚園とかそのくらいの小さい頃からときどき言っていたことがありました。

「いつか大きくなったら鎌倉に連れてってね」

どのくらい本気だったのかはよく分からないし、彼女に鎌倉のどんな思いがあったのか知る由もないのだけれど、とにかくよく言っていたのです。

故郷を出て、大人になって、鎌倉に連れて行くことなんて簡単に出来るようになったはずなのに、一度も連れて行ってあげられなかったのでした。

いつもいっぱいいっぱいだったな。でもその気になれば時間なんて無限にあったしお金だって絶対どうにかできたのに、それをいつまで経っても実現できずにいました。ふるさとに感謝しながらも、いきがる気持ちと、ふらふらしている申し訳なさとで、ずっと背を向けていた時期が長かったのです。

そのうちに丈夫だった祖父が病院通いになり鎌倉どころではなくなりました。彼が逝ってしまうと祖母もすっかり変わってしまい、無気力と悲観とがループするようになってしまいました。

そして祖父の逝ったちょうど1年後に祖母も亡くなってしまいました。今から2年前のことでした。



鎌倉に住もうと思ったのは祖母のことが理由ではないし、以前書いたようにいろんな偶然が重なって、あれよあれよと決まってしまった。けれど、やっぱりちょっとは関係あるのかな。小さい頃から鎌倉ってどんなところだろう?って多分思っていたはずだから(覚えてないけど)....やっぱり縁なのかなぁとも思います。


春を感じたそんな3月のうららかな日、その鉢を外に出して鎌倉の風にそよがせてあげて、やっと連れて来れたかなとしみじみ思いました。

ゆるやかな風がふわーっと吹いて。妻となんとなく話していて、あったかくなるから庭に植えてみようか、ということになりました。

祖母の夢が、ほんのカケラだけど、遅すぎだけど、叶えてあげられたかな。...そう思うのは傲慢かな。でもそんなふうに思って、大きく息を吐き出せたような気がしたのでした。

 

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後日談〜それから1カ月のこと〜

皆さんも記憶に新しいと思いますが、今年の春の初めは寒い日が続きました。ときどきはうららかな日が気まぐれにやってくるものの、またすぐ冬に逆戻りという繰り返し。

 

沈丁花はというと....植えたサイズ感のまままったく沈黙してしまいました。新芽も伸びず、葉っぱが少しずつ変色していくのです。

沈丁花はもともと植え替えに弱い植物らしいのです。それで心配な日々を1ヶ月以上も過ごすことになりました。

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いっこうに成長せず、生きているのかも分からず。枯れる前に接ぎ木をしておいたほうがよいだろうか、と案じたりもしながら毎日様子を見ていました。肥料は当面使わないので買っていなくて、米のとぎ汁を週に1~2回あげたりもしました。

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すると桜も散ったここ数日の話です。

沈丁花に動きが!出たまま固まっていた新芽がついに伸び始めました。あぁ、ここまで来れば大丈夫でしょう。しっかり根付いていつか花を咲かせて欲しいな。


いつもニコニコしていたおばあちゃんだけど、最後のほうは本当に可哀想で、それに関わらずあまり帰ってたげられなかったし、何にもしてあげられなかった。おじいちゃんだって、いつもひ孫の顔を見るのを楽しみにしていたのに、結婚の報告すら出来ませんでした。

親不孝・祖父母不幸を覚悟の上で20代は音楽にささげたけど、やっぱりごめんなさいという気持ちはあって。

けれど、歴史に「もし」はないし、今のこの暮らしがとても大切で、時がすぎるのがもったいないくらい愛おしくて大事にしていきたいと思っているから。おじいちゃん・おばあちゃんには上のほうから見守っていてもらいたいな。

おばあちゃん、鎌倉の風はどうですか。なんて綺麗にまとめてもしょうがないけれど。笑 

ユーミンの「春よ来い」の歌い出しには沈丁花が登場し、その形容には「いとし面影」が置かれている。沈丁花にはやはりいとしい人の面影が映ったり香ったりするのですね。

 

【ライブ情報】

●2017.05.14(日)
鎌倉 moln [モルン]
大森元気(&宮下広輔+くりすあすか) / 
fishing with john  (ツーマン)

 

●2017.06.03(土)昼
下北沢garage
岡田梨沙(ex.D.W.ニコルズ) /GOING UNDER GROUND / 谷澤智文 /
大森元気bandset / チャン・オータ(モノマネミュージシャン)